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会長声明・決議・意見書(2000年度)

少年法改正に関する会長声明

2000年10月24日更新

本年9月29日、少年法「改正」法案が衆議院に提出され、来週にも衆議院法務委員会において採決されようとしている。


今回の法案は、前国会で廃案となっていた政府提出法案に、犯行時16歳以上の少年がした人を死に至らしめた事案につき検察官に送致して地方裁判所の審理に付する「逆送」を原則とする、刑事処分可能年齢を16歳から14歳に引き下げる内容を入れるなどとして、与党三党の議員立法として提出されたものである。

近時、少年の重大事件においては、その動機、経緯、少年の精神状態などにつき解釈に戸惑うような事案も少なからず見受けられ、国民に広く不安を与えている。また被害者の心情への配慮がなかったことは法の欠陥であり、早急に是正されなければならない。


今回の法案は、家庭裁判所での審理の充実のために合議体での審理も設定し、被害者に記録閲覧・謄写、意見陳述の機会等を付与しているのであり、より真実に近づき、また少年への感化力を増そうとする方向性も示されており、その面において一歩前進の感はある。

しかし、頭書の「原則逆送」の設定、刑事処分可能年齢の引き下げなどは、立法すべきとする根拠たる事実に不十分であり、適切でないという外ない。そもそも少年事件の対策は、近時の少年事件の傾向分析、日々発達する少年の人格形成の分析、学校のあり方、家庭のあり方、家庭裁判所での審判の仕方などを有機的に研究して、各機関が迅速かつ果敢に取り組むべきものであり、その中で、少年法の改正も議論されるべきである。


ところで、少年犯罪が全体として凶悪化しているものでないことは統計上明らかである。1966年の殺人、放火、強姦、強盗の家庭裁判所新受件数は、少年1000人あたり0.55人であったのに対し、ここ数年は0.2人前後である。これのみでも、前記の原則逆送とすべきだとの立法事実があるのか、多大な疑問が生じるのである。


およそ現行少年法は、少年犯罪が少年自身の未熟さや少年の成長発達過程における歪みが原因となって引き起こされるものであるとの認識に立って、少年に対して教育的な処遇を施して成長発達を援助するという保護主義の理念を掲げているのであり、これは堅持されるべきである。


すなわち、この考え方こそ多くの少年の再犯を抑制し、立ち直りに貢献しているのである。統計でみると、家庭裁判所に送致された少年の非行前歴のある少年は、15年程前は20%を超えていたのに着実に低下し1988年で13.2%に止まる。少年の重大事件の比率的には諸外国より低いことも忘れてはならない。1996年、18歳未満の少年の殺人事件は、アメリカが10万人中7人強、イギリス、フランスが2.5人であるのに対し、日本は0.5人程である。このアメリカにおいて、殺人事件による被検挙者のうちの18歳未満の比率は1991年に13.1%であったのに対し、保護主義の施策を後退させた1994年には16.4%と増大した事実は注目すべきものである。

かかる観点からするならば、少年法の改正をするとしても、保護主義の理念と施策を後退させる方策が適切でないことは明らかであろう。


今回の法案提出の理由は「最近の少年事件等の動向にかんがみ、少年及びその保護者に対し、その責任について一層の自覚を促して少年の健全な成長を図るため」とするが上記のとおりの少年事件の動向からして説得力がなく、少年事件の十分な分析のうえに立って検討すべき課題であるのにこれをせず、法律の改正のみによって国民の不安を慰撫しようとするきらいがあり、適切でない。


さらに今回の法案も、家庭裁判所の審判において、争う事件などにつき検察官が立ち会うことを認めるが、その際、一件記録を予め審判官が見たうえで審理するというもので、刑事裁判の場合の裁判官に予断を持たさせないための「起訴状一本主義」「伝聞証拠の禁止」のごとき重要な制度をとらないままに検察官の立会いを可能とするとのことであり、適正ではない。


法案はまた、検察官に家庭裁判所決定に対する抗告受理申立権を付与しているが、これは不処分等の決定を受けた少年にとってさえ、さらなる長期間の身柄拘束や地位の不安定を招来するものであって、適切ではない。


法案はさらに、被害者の立場への配慮が、まだまだ不十分である。すなわち、被害者らの意見陳述も、裁判官、家庭裁判所調査官において、申し出があるときに原則として聴取させるというだけであって、少年に感化力を持たせる工夫が不十分なままである。記録の閲覧・謄写についても、「決定があった後」にのみ「相当と認めるときは」の限度という裁判所の裁量としており、事実を知りたいと願う被害者の権利を認めていないものであって、不十分にすぎる。

以上の通り、本法案は、一部に評価できるものがあるものの、不十分な点、看過できないもろもろの問題点をはらんでいるものであって、全体として賛意を示すなどできず、強く反対する。

少年事件への対策は、人格の可塑性ある子どもを、社会とどう向き合わせていくか、という重大な課題であり、最近の少年事件の実態、少年の原因の調査、とりわけ前記のごとき異常かつ重大な事件の少年事件の経緯と精神状態の分析を丁寧に行ったうえで、幅広い分野の方々からの意見を聴取して、対策を施すべきであり、その中でこそ少年法の改正も議論されるべきである。


2000年(平成12年)10月24日
横浜弁護士会
会長   永井 嵓朗

 
 
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