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会長声明・決議・意見書(2000年度)

弁護士報酬を敗訴者に負担させる制度についての会長声明

2001年01月15日更新

2000年11月20日付で出された司法制度改革審議会の中間報告においては、弁護士報酬を敗訴者に負担させる制度について、「基本的に導入する方向で考えるべきである」としている。

同報告では、弁護士報酬を訴訟の勝敗にかかわらず訴訟当事者各自の負担とする現行制度のもとでは、訴訟が必要以上に費用のかかるものとなることなどから、訴え提起をためらわせる結果となり、また、不当訴訟を誘発するおそれがあるとの指摘をしており、これらの点については一応理解できることではある。また、同報告では、労働訴訟、小額訴訟など敗訴者負担制度が不当に訴えの提起を萎縮させるおそれのある一定の種類の訴訟は例外とすべきであるとするなど、一定の配慮もうかがえる。

しかしながら、一般的にいってどのような訴訟においても、訴訟を提起しようとする段階ではその帰趨は不明であるのが大半であろうから、敗訴の場合に相手方弁護士の報酬まで負担しなければならない可能性があることになれば、そのリスクの高さを考慮してますます訴訟に踏み切ることを躊躇する傾向が出てくるであろう。特に、消費者訴訟などで先例の乏しい事例の場合には、同種事件解決の指標となる司法判断が下されることが期待されるにもかかわらず、勝訴敗訴の判断を下すことの困難さから、通常の訴訟の場合以上に萎縮効果が働くことは否めない。このことは、敗訴者負担制度をとっている英国において消費者事件の訴訟件数が極めて少ないことからも明らかである。

また、たとえば学校でのいじめに関する訴訟、医療過誤訴訟、消費者訴訟等に典型的にみられるように、「隠された事実」を明らかにする目的もあって訴訟を提起するということが多くみられるのであり、同制度の導入はこうした真実探求をめざした訴訟の道を事実上閉ざす結果になりかねない。

そして、訴訟提起しようとする者が経済的に弱者である場合には、敗訴者負担のリスクの高さに萎縮して訴訟を断念するという事態も起こり得る。また、社会的弱者に対して強いものが敗訴者負担制度を使って訴え提起をためらわせることもありうる。さらに言うならば、裁判官が忙しさのために判決を嫌い、和解による解決を強く希望するという現状のもとで同制度が導入されると、裁判官が敗訴による弁護士費用負担の可能性を示唆して和解を強く勧奨し、当事者がこれを容易に否定できないといった状態になることも想定されないではない。

同制度の例外とされる訴訟としては、具体的に例示されている労働訴訟、小額訴訟のほかに、消費者訴訟、環境・公害訴訟、医療過誤訴訟、いじめの問題を含む学校災害訴訟など、様々な類型の訴訟が想定できるが、「例外」となる明確な基準を設定することはほとんど不可能である。たとえ明確な基準を設定できたとしても、新しい人権侵害型訴訟など、従来の枠組みに入らない訴訟を提起する事態となった場合には、敗訴者負担の危険による萎縮的な効果が働くことは否定できない。先に述べた英国では、消費者問題などはオンブズマン制度が導入されて消費者保護を図っているが、かような制度もなく、法律扶助も不十分なままに敗訴者負担を導入すれば、萎縮効果による実害も大きくならざるを得ない。

こうした点を考えると、基本的人権の擁護拡充のために法の支配を広く徹底させて「大きな司法」を実現しようとする観点からして、弁護士費用の敗訴者負担の制度は、なお多く検討すべき課題を残しているのであり、その導入については慎重にすべきである。

よって、「基本的に導入する方向で考えるべきである」とする中間報告の部分については反対する。

2001年1月15日
横浜弁護士会
会長  永井 嵓朗

 
 
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