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会長声明・決議・意見書(2000年度)

刑事弁護制度改革に関する会長声明

2001年03月08日更新

昨年11月20日、司法制度改革審議会は中間報告を発表したが、その中で、刑事弁護について次のような報告をしている部分がある。「集中審理を実現するためには、弁護人を含む関係当事者の人的体制を整備することが必要であり、具体的には以下の諸点に留意すべきである。

 

  • 弁護人が個々の刑事事件に専従できるような体制の確立が必要である。
  • そのために、①後述する公的刑事弁護制度を確立し、常勤の弁護士が刑事事件を専門  に取り扱うことができるような体制を整備し、………」(4・イ(ア))

 

更に、中間報告の「被疑者・被告人の公的弁護制度の在り方(4・ウ)」の中の「導入のための具体的な制度の在り方」(b)では、次のようにも述べている。


「(公的弁護制度の)運営主体やその組織構成、運営主体に対する監督などの検討にあたっては、公的資金を投入するにふさわしいものとする………」


このような中間報告の記述は、抽象的なものだけに、一見するともっともらしく考えられるが、子細に検討してみると、次のような問題点が浮かび上がってくる。


現在の弁護士の中には、中間報告が望ましいものとしている刑事事件専門の弁護士は、我が国においては、希有の状態である。ましてや、国選弁護(将来的には公的刑事弁護)を専門とする弁護士はほとんど存在しないと思われる。その最大の理由は、国選弁護人に対する経済的支援の貧弱さにある。弁護士会は長い間国選弁護料の引き上げを求め続けてきたが、未だに極めて不十分なものでしかない。記録の謄写料はほとんど出ないか、著しく制限されている。通訳料も引き下げられてしまった。このような状態の中で、国選弁護(ないし公的刑事弁護)専門の弁護士であろうとすれば、取扱件数を増やす以外に方法はなく、このことは充実した刑事弁護及び集中審理のための大きな阻害要因となっている。従って、国選弁護(公的刑事弁護)に対する経済的支援の飛躍的増加は中間報告の前提条件として位置づけられなければならない。


また、刑事弁護は、本質的に検察・警察と、場合によっては裁判所とも対立せざるを得ない性格を有している。被疑者被告人に対する適正手続を保証するためには、検察・警察・裁判所などの国家権力あるいはマスコミや世論とも対峙し、毅然とした弁護活動を行わなければならない場面もしばしば存在する。このような刑事弁護制度の本質抜きに、公的刑事制度の運営主体や組織構成、運営主体に対する監督などの検討を行うことはできない。中間報告では「公的資金を投入するにふさわしいものとする」というような抽象的な文言でまとめているが、刑事弁護人と先鋭に対立する可能性のある検察・警察・裁判所さらにはマスコミや世論などに迎合しない自主独立機関である必要性が明記されなければならない。


以上の2点は、中間報告の目指す刑事弁護制度改革の前提条件である。しかるに、中間報告では、このような指摘は明示されていない。このような前提条件抜きに実現される公的刑事弁護制度あるいは常勤の刑事弁護専門弁護士は、訴追機関等に迎合し、被疑者被告人の権利を軽視した弁護士ないし刑事弁護制度になりかねない。


よって、司法制度改革審議会が本年6月に予定している答申においては、この2点が明示されなければならない。そのような前提条件抜きになされる刑事弁護制度改革であるならば、強く反対せざるを得ない。

2001年(平成13年)3月8日
横浜弁護士会
会長   永井 嵓朗

 
 
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