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会長声明・決議・意見書(2005年度)

自衛隊のイラク派遣期間延長問題に関する会長声明

2005年12月09日更新

  1. いわゆるイラク特別措置法に基づき昨年12月9日閣議決定された「対応措置に関する基本計画」は、自衛隊等のイラクへの派遣期間を同月15日から本年12月14日までと定めている。その期限の到来を迎えて、本日政府はその期間延長の閣議決定をした。

    このイラクへの自衛隊等の派遣に対しては、当会は昨年12月22日、多くの自衛隊基地・米軍基地及び自衛隊員・家族を含む住民を抱える神奈川県の弁護士会として、会長談話を発表し、その派遣が憲法第9条の禁止する集団的自衛権の実質的な行使となる疑い、及び「非戦闘地域」というにはほど遠い実状にあるイラクへの派遣が同法自身にも反することを指摘し、憲法の平和主義を危うくするものとして、その派遣の中止と国民的議論の徹底を強く訴えたところである。
  2. この1年間、イラクにおいては依然として戦闘行為やテロ行為が跡を絶たず、日本人及び自衛隊も攻撃の標的とされるようになってきている。本年4月には合計5人の日本人が自衛隊のイラク撤退を求める人質として武装グループ等に拉致され、その後幸いにして解放されたものの、去る10月30日にはとうとう人質とされた日本人1人が殺害・発見されるに至った。この間日本人ジャーナリスト2人の車が襲撃されて殺害される事件も発生している。サマワの自衛隊宿営地及びその付近に対する砲撃はすでに8回に及び、そのうち10月には2回にわたってロケット弾が宿営地内に着弾している。
  3. このようなイラクの現状は、イラク特別措置法が自衛隊等の活動地域を限定した「非戦闘地域」、すなわち「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」に該当するとは到底思われない。近時の政府のこの点に関する国会での答弁も、極めてあいまいなままである。

    そして上記のように、自衛隊は米英軍等のイラク戦争遂行の協力者とみられて撤退要求や砲撃の対象とされてきており、このままでは自衛隊がさらなる攻撃を受け、戦闘に巻き込まれる危険性が極めて高い。そしてこれに対し、自衛隊が防御・反撃に出るといった事態になれば、それはそのまま、同法及び憲法第9条が禁止する集団的自衛権行使としての「武力の行使」へと発展してしまう危険性が、現実に危惧されるのである。
  4. 今回の基本計画に定める派遣期間の満了は、イラク問題へのわが国と自衛隊の関与の是非やあり方を再考し、わが国の針路を問い直すべき、極めて重要な機会である。しかし、この間の国会審議等における政府の説明、例えば「非戦闘地域」といいうることの合理的根拠、自衛隊の派遣延長の具体的必要性、自衛隊員の安全性の確保についての説明など、余りにも貧弱なままであると言わざるを得ない。このように、必要な議論と検討を欠いたまま、国の基本的な行方を左右するほどの政策決定が、既成事実を追認するかたちで安易に行われていくことには、重大な危惧を感じざるを得ない。

    この局面において私たちは、既成事実の積み重ねから戦争の泥沼に嵌り込んでいった歴史と、その経験の上に制定された憲法の平和条項の限りない重みを、改めて確認する必要があると考える。「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすること」(憲法前文)のためには、取り返しのつかない事態に陥る前に立ち止まり、撤退する勇気が必要だと考える。

    当会は、わが国の基本的な針路と憲法体制の根幹を左右しかねない現在の岐路に当たり、政府が選択を誤って取り返しのつかない事態に陥ることを真に危惧し、現状の下で自衛隊の派遣期間を延長することに反対であることを表明するとともに、今後の自衛隊の速やかな撤退を求め、これについて国会及び国民全体で徹底した議論を再度尽くして、慎重かつ冷静に、わが国及び憲法の平和主義の現状と将来を見極めるべきことを強く訴えるものである。


2004年12月9日
横浜弁護士会
会長  高橋 理一郎

 
 
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