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会長声明・決議・意見書(2005年度)

「ゲートキーパー立法」に反対する会長声明

2006年01月12日更新

  1. 2005年11月17日、政府は、金融情報機関(FIU)を金融庁から警察庁に移管する方針を決めた。

    マネーロンダリングまたはテロ資金対策のため、金融機関を金融取引におけるゲートキーパー、すなわち門番とすべく、マネーロンダリング等の疑いがある取引があった場合、FIUへ報告する義務を負わせている。政府は、このゲートキーパーとしての役割を弁護士にも担わせる方針である。

    しかし、FIUを金融庁から警察庁に移管した上で、弁護士に対し、依頼者がマネーロンダリング等を行っているとの「疑い」を持った場合に、その「疑わしい取引」につき警察庁への報告義務を負わせることは、「国家権力からの独立性」という弁護士の存立基盤を揺るがしかねない重大な問題を孕んでおり、到底容認することはできない。
  2. 弁護士は、国民の人権と法的利益を擁護するために、国家権力から独立し、場合によっては国家権力と対抗関係に立つことを要請される。弁護士自治が認められているのも、弁護士が、国家権力から独立した人権擁護の担い手として、いかなる権力にも屈することなくその職責を果たすことを可能ならしめるために他ならない。

    このように、弁護士が国家権力から独立した法律専門家としての地位を保障され、職務上知り得た秘密を保持する権利を有するとともに、依頼者に対し高度の守秘義務を負うことで、依頼者は弁護士に対して、初めて、全てをうち明けて法的助言を受けることが可能となる。弁護士にこの高度の守秘義務があることで、市民は、秘密のうちに弁護士と相談する権利が保障されることになるのである。
  3. ところが、弁護士が単なる「疑い」をもったにすぎない段階において、「疑わしい取引」を警察庁へ報告するということは、依頼者にとっては、自分の秘密を捜査機関へ密告されたに等しく、依頼者の弁護士への信頼を決定的に損なうことになる。

    その結果、このような報告制度のもとでは、依頼者は弁護士を信頼して全ての事実をうち明けることはできず、また依頼者が密告を怖れて全ての事実をうち明けないとすれば、弁護士も、不十分な事実を前提とした不十分な助言・弁護しかなしえず、その法律専門家としての任務を効果的に遂行できなくなるのである。
  4. 弁護士がマネーロンダリング等に関与すれば、当然、弁護士倫理に反し懲戒処分の対象となる。これまでにおいても弁護士は、依頼者との面談の中で、マネーロンダリング等の疑いを感じ取れば、依頼者に対しその可能性を指摘し、改善、中止を促すことが期待でき、それにより、マネーロンダリング等を未然に防止することが可能であった。しかし、マネーロンダリング等に該当する可能性を本人に報告することなく、警察庁に報告することが義務付けられた場合、依頼者は、犯罪に該当する可能性のある行為については、弁護士に対しても口を噤むこととなり、従前可能であった犯罪の未然防止も不可能となる。

    当会も、マネーロンダリング及びテロ資金対策の重要性については否定するものではない。ただこの点は、会員に対する研修を実施し、この問題に対する注意を喚起することで、マネーロンダリング等の防止は十分に図れると考える。
  5. 以上のとおり、弁護士に対し、「疑わしい取引」について警察庁への報告義務を課すことは、弁護士の「国家権力からの独立性」という弁護士制度の存立基盤を危うくし、弁護士と依頼者との信頼関係を損なうだけでなく、これまで弁護士が果たしてきた犯罪の未然防止の役割を不可能ならしめた上に、依頼者に対しては適切な法的助言を受ける機会を奪う結果をもたらしかねないのである。


よって、当会は、弁護士に対し警察庁への報告義務を課そうとするゲートキーパー立法に強く反対する。

以上
 


2006(平成18)年1月12日

横浜弁護士会
会長 庄司 道弘

 
 
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