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会長声明・決議・意見書(2008年度)

「布川事件」再審開始に関する会長声明

2008年09月02日更新

2008(平成20)年7月14日、東京高等裁判所第4刑事部は 、請求人櫻井昌司氏、同杉山卓男氏にかかる再審請求事件、いわゆる「布川事件」について、2005(平成17)年9月21日に水戸地方裁判所土浦支部が下した再審開始決定を維持し、検察官の即時抗告を棄却した(以下「本決定」という。)。

布川事件は、1967(昭和42)年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件の犯人として請求人両氏が別件逮捕され、代用監獄での取調べ過程で自白させられたものの、第一審公判開始以来今日まで一貫して無実を叫び続けてきた事案である。1978(昭和53)年の上告棄却決定により無期懲役の判決が確定したが、確定判決の証拠構造は、請求人らと犯行とを結び付ける物証は皆無で、有罪の根拠は曖昧な目撃証言と矛盾・変遷が顕著な請求人らの自白しか存在しないという脆弱なものであった。

本決定は、新旧全証拠を総合評価し、目撃者の供述の信用性と、請求人らの自白の信用性のいずれについても重大な疑問が生じており、確定判決の判断を維持することはできないとして、再審開始決定を支持したものである。

また、この決定は、一旦否認した請求人らを再度、警察署に移監したことは「虚偽自白を誘発しやすい状況に請求人らを置いたという意味で」「大きな問題があった」と違法捜査によるえん罪であることを示唆している。確定審では、自白録音テープが自白の任意性・信用性の有力な根拠とされていたが、これら録音テープについては、「取調べの全過程にわたって行われたものではない上」「変遷の著しい請求人らの供述の全過程の中の一時点における供述に過ぎない」として、自白の信用性を補強するものではないとした。

誠に正当な決定であって、当会は、これを高く評価する。

他方、本決定について、検察官が、同月22日、特別抗告の申立てをしたことは、誠に遺憾と言わざるを得ない。

本決定は、数々の新証拠について、検察官の意見も十分に聴いた上で、慎重な審理を遂げた結果、これら新証拠が「確定審における審理中に提出されていたならば、請求人らを有罪と認定するには、合理的な疑いが生じていたものというべき」であるとしたものである。 本件においては、明白性有りとされた新証拠の多くが、弁護人の求めに応じて再審段階で新たに開示された検察官の手持ち証拠であった。これらの証拠が早期に開示されていれば、そもそも請求人らは有罪判決を受けなかった可能性が高い。

検察官に望まれるのは、公益の代表者として、この決定を謙虚に受けとめ、再審開始後の審理において公正な裁判を実現することである。当会は、検察官が特別抗告を一日も早く撤回して真実の発見と審理の促進に協力するとともに、本決定の指摘する本件捜査の問題点を真摯に反省し、適正な捜査の実現に努めるよう強く要望するものである。

なお、当会は、請求人らの虚偽自白を生み出し、不法な取調べの温床となっている代用監獄の廃止、取調べの可視化(取調べの全過程の録画)、証拠の全面開示の実現など、えん罪を防止するための制度改革を実現するべく全力を尽くす決意である。


2008年(平成20年)8月28日

横浜弁護士会
会長 武井 共夫

 
 
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