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会長声明・決議・意見書(2011年度)

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及びパリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機関の設置を求める決議

2011年05月25日更新

当弁護士会は、わが国における人権保障を推進し、国際人権基準の実施を確保するため、2008年の国際人権(自由権)規約委員会の総括所見をはじめとする各条約機関からの相次ぐ勧告をふまえ、国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した、真に政府から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。


決議理由

 

  1. 個人通報制度について

    個人通報制度とは、各人権条約に保障された人権が侵害され、国内での救済手段(裁判)を尽くしてもなお救済されない場合、被害者個人等がその人権条約上の委員会に通報し、その委員会の意見(Views)を受けて、個人の権利の救済を図ろうとする制度である。

    この個人通報制度は、国際人権(自由権)規約、女子差別撤廃条約においては条約本体に附帯する選択議定書に定められ、人種差別撤廃条約及び拷問等禁止条約においては条約本体の中に個人通報受諾条項が定められている。したがって、個人通報制度を導入するためには、選択議定書の批准あるいは本体条約の当該条項の受諾宣言をすることが必要であるが、日本政府は未だに批准又は受諾宣言を行っていない。2011年4月現在自由権規約批准国167カ国中113カ国が選択議定書を批准しており、OECD30カ国中で、いかなる個人通報制度も利用できない国は日本だけである。

    個人通報制度が実現すれば、国内の裁判で救済されなかったケースについて、個別の救済が図られる可能性があり、日本の裁判所が人権条約の適用について積極的とはいえず、国際人権基準の国内実施が不十分となっていることに鑑みるとその意義は大きい。また、救済は、条約機関の意見を経たのち、行政的措置あるいは新たな立法などでなされることが予想されるため、当該ケースのみならずその後の同種の事例においても救済が図られることになる。さらに、裁判所においては、国内での裁判の後に条約機関での意見があり得ることを前提として条約機関の見解を念頭においた判断をせざるをえないことになり、その結果として、日本における人権保障水準が国際基準にまで近づき、また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの効果も期待される。
  2. 国内人権機関の設置について

    国内人権機関とは、人権侵害からの救済、国際人権基準に基づく立法や行政への提言及び人権教育の推進などを任務とする国家機関である。憲法や国際人権条約などで保障される人権が侵害され、その回復が求められる場合に、司法手続よりも簡便で迅速な手続で救済を図ることができることになる。そのため国連決議及び人権諸条約機関においても、各国に対し、かかる国内機関の設置を求め、これまでに多くの国で人権を保護しあるいは人権状況を監視する国内人権機関が設置されている。

    国内人権機関を設置する場合、その基準となるのが、1993年12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)である。同原則では、国内人権機関は、法律に基づいて設置されること、権限行使の独立性が保障されていること、委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性を保障されていること、調査権限及び政策提言機能を持つことなどが必要とされている。

    現在、我が国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが、人権擁護委員は、その職務に関して法務大臣の指揮監督を受けるとされるなど独立性において極めて不十分な制度である。

    そのため、我が国に対しては、国連人権理事会、人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約機関から、早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており、また、国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。

    このような状況の中で、日本弁護士連合会は、2008年11月18日、パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。

    さらに、2010年6月22日には、法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告」において、パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど、国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。
  3. 当弁護士会は、わが国における人権保障を推進し、また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため、国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く採用し、パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。


以上のとおり決議する。


2011年(平成23年)5月25日
平成23年度横浜弁護士会通常総会

 
 
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