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会長声明・決議・意見書(2017年度)

成年年齢を引き下げる民法改正に反対する意見書

2017年11月08日更新

第1 意見の趣旨

 成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正に反対する。

第2 意見の理由

1 現在、政府は、民法が定める成年年齢について、現行の20歳から18歳に引き下げることを検討している。
 しかしながら、民法が定める成年年齢を引き下げることについては、以下のような多数の法的な問題が存する。

2 キャッチセールス、アポイントセールス、連鎖取引販売、過量販売等の消費者被害は、20代前半の若者や高齢者等の判断能力が不十分な層に多発している。
 現行民法では、成年年齢は20歳とされ、20歳未満の未成年者は、契約を締結する際に親権者の同意を要し、これを欠く場合、未成年者取消権を行使することができ、消費者被害に遭った際の救済手段となっているが、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げると、このような救済手段を18歳以上20歳未満の若年者から奪うことになる。
 18歳以上20歳未満の若年者は、卒業前の高校生まで含まれ、大学又は専門学校に進学したとしてもまだ学生であり、社会人として活動している者も、いまだその経験は浅い。親元を離れて進学等のため初めて一人暮らしをする者も多い。それにもかかわらず、未成年者取消権という消費者被害に遭った際の救済手段がないとなると、悪質な業者による格好の標的となることは必定である。
 現状では、義務教育・高等学校教育における消費者教育はいまだ十分といえず、民法の成年年齢を引き下げ、これに伴い18歳以上20歳未満の者が締結する契約を、未成年者取消権や親権者による同意権の対象外とすることは、消費者被害の観点から非常に危険である。
 また、18歳以上20歳未満の若年者に対して、過剰与信が行われることも懸念される。

3 仮に民法の成年年齢を引き下げるのであれば、最低限、キャッチセールス、アポイントセールス、連鎖取引販売、過量販売の被害について、消費者契約法及び特定商取引法改正により、若年層保護の手当てをするとともに、割賦販売法、貸金業法を改正の上、若年層に対する与信を厳格化し、若年層の保護を行うことが必要不可欠であるが、現行法上、このような手当はほとんど行われていない。
 即ち、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げるのであれば、若年者保護の観点から、最低限でも、消費者法の分野において、

① 消費者契約法を改正し、判断力、知識、経験等の不足に付け込んで若年者等に契約を締結させた場合に、同契約を取消すことが出来る制度を設けること、

② 特定商取引法を改正し、18歳以上20歳未満の若年者に特定商取引法所定の特定商取引を行う場合には、事業者に、当該若年者の知識、経験財産状況に照らし、不適当でないことの確認を義務付け、かつ同確認を怠った場合の取消制度を設けるとともに、これが訴訟で争われた場合には、同確認を行ったことの立証責任を業者側に負わせること、

③ 特に弊害が予想される、連鎖取引販売について、18歳以上20歳未満の若年者に対する勧誘を禁止すること

④ 貸金業法、割賦販売法を改正し、18歳以上20歳未満の若年者に与信をする場合に、過剰与信にならないよう資力要件と確認要件につき厳格化を図り、これらの要件を欠く与信を行った業者は元本を含めた返還請求ができないこととすることを含めた若年者保護の制度を設けること、


等が必要である。このような制度が全くない現行法下で、民法の成年年齢が引き下げられると、若年者に消費者被害が多発することになりかねない。

4 以上のような消費者被害の観点以外にも、離婚の際の養育費について、成年に達したときを支払終期とすることが多かった家庭裁判所の実務に照らせば、民法の成年年齢が引き下げられることによって養育費の支払終期が早まり、いまだ稼働に至らない18歳以上20歳未満の若年者の生活や教育について経済的な悪影響がもたらされることが懸念される。
 また、いわゆるブラックバイト問題に対して有効な、労基法58条が定める未成年者に不利な労働契約の解除権も、民法の成年年齢が引き下げられることによって18歳以上20歳未満の若年者が行使できなくなってしまう。
 このように、民法の成年年齢の引き下げは、18歳以上20歳未満の若年者の権利擁護の観点から、懸念が大きい。

5 さらに、民法の成年年齢の引き下げは、少年法の適用年齢の引き下げと論理的に直結するものではないが、少年法に関する議論においても、「民法上の『成年者』として親権に服さない者に国が類型的に後見的な介入をするのは過剰な介入ではないか」との意見があること等からすれば、少年法の適用年齢の問題にも事実上大きな影響を及ぼす懸念がある。

6 したがって、民法の成年年齢の引き下げは、民法その他未成年者の保護を図る各法律の趣旨・目的を踏まえた慎重な検討が必要不可欠であり、成年年齢の引き下げによってもたらされるこれらの不利益に対する手当もないまま、成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正には反対する。

以上


2017(平成29)年10月19日
神奈川県弁護士会
会長 延命 政之

 
 
本文ここまで。