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会長声明・決議・意見書(2004年度)

学校と警察との間の情報連携に係る協定書についての会長声明

2005年03月11日更新

神奈川県教育委員会は、神奈川県警察本部との間で「学校と警察との間の情報連携に係る協定書」を締結するため、昨年12月28日、神奈川県個人情報保護審議会に対し、神奈川県個人情報保護条例に基づく諮問を行った。現在、同審議会では、その協定書案について、継続審議中である。本協定書案は、平成14年5月27日付の文部科学省児童生徒課長通知を根拠とし、児童生徒の非行防止、犯罪被害防止及び健全育成を図るため、学校と警察が、児童生徒に関する情報を相互に提供しあうことにより連携をはかろうとするものであるが、以下に述べるとおり、重大な問題がある。

まず、本協定書案は、犯罪行為や犯罪被害、さらには「いじめ」や児童虐待などに関する情報について、学校が警察へ提供し(目的外提供)、あるいは学校が警察から収集すること(本人外収集)を予定している。しかし、これらの情報は、基本的人権を侵害するおそれが高いセンシティブな個人情報であることから、保護の必要性がとりわけ高く、その目的外提供や本人外収集は原則として禁止され、例外的に認められるためには、その手段が目的達成のために必要最小限のものであることが要求される。しかるに、本協定書案には法令上の根拠がなく、その目的も一義的ではない。また、情報提供事案の範囲、提供される情報の内容なども、明確に限定されているとはいいがたい。さらに、情報提供がなされた場合の本人への通知も保障されておらず、個人情報の開示請求権や訂正請求権の保障も極めて不十分である。かかる本協定書案は、目的達成のために必要かつ最小限のものとはいいがたく、個人情報保護の観点から大きな問題がある。協定に基づく情報提供という事務全体について、事前かつ包括的に審議会の意見を聴くという本件諮問のあり方も、個人情報の保護をはかる条例の趣旨を潜脱するものといわざるを得ない。

そもそも、児童生徒は、未熟であっても成長していく存在であり、失敗や過ちを犯しながらも、教育によってそれを克服し、人格を形成させていくべきものである。教育は、そのような児童生徒及び保護者と教師との間の信頼関係を基本にしてこそ、成り立つものである。しかるに、本協定書案のような情報提供を認めれば、教師を信頼して相談した内容がそのまま警察に情報提供されてしまうことになり、児童生徒と保護者は萎縮し、学校に対する信頼をも失わせる危険性が高い。また、警察への情報提供が優先されることにより、学校の教育機能の低下を招きかねず、教師によっては、警察に対する情報提供を背景として児童生徒を抑え込もうとすることも考えられ、教育自体が変容してしまうおそれがある。さらに、警察から学校に対する情報提供についても、それに基づき退学等の懲戒処分が行われるなど、過ちを犯した児童生徒の立ち直りの場を失わせることにつながりかねない。


また、本協定書案は、児童虐待に関する事実についても、学校から警察に情報提供するものとしているが、児童虐待への対応には、児童福祉に関する専門的な知識・経験を要するため、児童福祉法は、その判断を児童相談所等に委ねている。本協定書案による学校から警察への情報提供は、このような法の趣旨に反し、児童相談所等による適切な対応を阻害しかねないものであり、さらには、児童生徒や保護者が学校への相談を躊躇してしまい、事態をより深刻化させるおそれも極めて大きい。

今日、児童生徒の安全確保は重要な課題であり、その目的のために、学校と地域・警察等が協力する必要があることは言うまでもない。しかし、これら必要な協力関係は、かかる協定の有無にかかわらず、現在の法制度で十分に図ることができるものである。


以上のとおり、本協定案には、個人情報保護及び教育・児童福祉のあり方といういずれの観点からも重大な問題がある。よって、当会は、本協定の締結に対し、強く反対するものである。


2005年(平成17年)3月11日
横浜弁護士会
会長  高橋 理一郎

 
 
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